『刀と傘 ―明治京洛推理帖―』

2018年11月22日

 ぼくはお前を愛しているのだもの。恐ろしい、けれど、はなすことの出来ない罌粟の花とおなじように愛しているのだもの。

山田風太郎「死者の呼び声」

 小さい頃から、ミステリが好きでした。

 思うに親の影響が大きかったのでしょう。母親がヘヴィーなミステリ読みだったので、実家の本棚にはクイーンやカー、クリスティなどの海外古典から、国内では戦前の本格派、幻影城時代、そして新本格ミステリまでずらりと並んでいました。門前の小僧だって習わぬ経を読む訳で、居間のテレビで流れていたジェレミー・ブレットのホームズや、デヴィッド・スーシェのポアロを親の横でそれとなく観ているうちに、気が付けばすっかり赤い夢の世界に囚われていたという次第です。

 そしてそれから幾星霜、「素敵なミステリが読みたいなァ」と思っていた少年は、いつしか「素敵なミステリが書きたいなァ」と思うようになっていました。大学に進んで移り住んだ京都では、奇を嗜み変異に耽溺する愉快な同志社ミステリ研究会の連中と出会い、夜を徹してああだこうだと語り合いながら、見様見真似で書き続けた結果、彼は多くの人に助けられて遂に一冊の本を上梓するに至りました。


サテ、という訳で。


戊辰戦争直前の京都で起きた或る志士の怪死事件。江藤と師光、出会いの物語。

「佐賀から来た男」


閉ざされた文庫のなかで、汚職官吏は本当に自ら腹を切ったのか?

「弾正台切腹事件」


夕刻には斬首される筈だった罪人の昼餉に、毒を混ぜた下手人の目的とは。

「監獄舎の殺人」


完璧と思われた由羅の殺人計画。そんな彼女の元を、司法卿の江藤と名乗る男が訪れる。

「桜」


政府を辞し佐賀に戻る途上、江藤は立ち寄った京都――監獄舎で再び事件に巻き込まれる。

「そして、佐賀の乱」


 大変長らくお待たせしました。第12回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む、江藤新平と鹿野師光の上記5つの探偵譚『刀と傘 -明治京洛推理帖-』、11月30日発売です。

 どうぞよろしくお願いします。