【新作告知】「囚われ師光」

2019年04月05日

 4/11発売予定の『ミステリーズ!vol.94 APRIL 2019』に、〈明治京洛推理帖シリーズ〉の新作読み切り短編、「囚われ師光」が掲載されます。

 舞台は慶応4年1月、ちょうど鳥羽・伏見の両街道で戦いの火蓋が切られた直後の京都。

 休戦に向けて奔走していた尾張藩公用人、鹿野師光は、市内で勃発した小競り合いに巻き込まれ、気が付くと牢獄のなかにいた。

 自分はなぜ囚われの身なのか、また、ここは何処なのか。戸惑いつつも牢から抜け出す術を模索する師光に、隣の牢から無駄だと声が掛かる。先に囚われた男がいたのだ。

 姿の見えないその男は、生け捕りにされた身の上を恥じて食を絶っていた。翻意させようと話をするなかで、師光は、江戸で洋学を学んだという男の来歴を知る。

 知識も学問も、戦火の前では何の役にも立たなかった、全てが無駄だった――そう自嘲する男に、知識があるから自分たちは行動できるのだと師光は反論する。

 そんな師光を脳天気だと男は笑い、それならばその知識とやらを使って、敵方に囚われいつ首を刎ねられるとも分からないこの状況が何とかなるのかと嘲弄する。

「頭さえ使えば、ここから抜け出すことだって易々たるもんです。おれの主張はちっとも変わりませんね」

 師光は胸を張った。

「いいでしょう。あんたがそう云うなら、ほうだな、七日以内に抜け出して、あんたの牢の前に立ってみせようじゃありませんか。知識ッちゅうのも、なかなか棄てたもんじゃないことを教えてあげますよ」

 題名通り、囚われの身の師光が脱獄しようと四苦八苦する物語です。フットレル「十三独房の問題」や乱歩『怪奇四十面相』のような脱獄ミステリ、あれの幕末ver.がやってみたかったのですよ。

 加えてもう1点。『刀と傘』では十分にできなかった或る趣向を、今回の「囚われ師光」の最後の方に少し凝らしてみました。......好きなんです、ああいうの。

 学生時代を過ごした京都、今出川に捧げる一篇です。ご期待下さい。