【新作告知】「波戸崎大尉の誉れ」

2023年07月24日

 193×年、満州——。

 満洲と朝鮮の国境付近に位置する琿春市の師団司令部に、匿名の投書が届く。それは、目下間島地区で匪賊掃討作戦を敢行している歩兵第××連隊において、軍需物資の横流しが行われている事実を告発する内容だった。

 士気の沈滞を恐れた師団司令部は、告発者を特定して揉み消しを図るため軍上層部からも信頼の厚い探偵の月寒三四郎を××連隊に送り込む。

 月寒の調査によって、告発者は中隊長を務める波戸崎大尉であることが判明した。そんな矢先、波戸崎は匪賊の襲撃に遭い瀕死の重傷を負ってしまう。

 連隊司令部内の医務室に運び込まれ何とか一命は取り留めた波戸崎だったが、重篤な容態であることに変わりはなく、月寒や連隊長が見舞いに訪れた際も昏睡したままのようだった。

 そしてその晩、南京錠と分厚い氷柱に鎖された将校用の病室から、波戸崎は不可解な消失を遂げる——。

~読者への挑戦~

真相の解明に必要な手掛かりは、全て本文中に提示されています。本編熟読の上、左記3点にお答えください。

①波戸崎大尉は如何にして消失したのか。

②それを企画・遂行した者は誰か。

③また、その動機・目的は何か。

 講談社の会員限定小説誌『メフィスト 2023 SUMMER Vol.8』に「波戸崎大尉の誉れ」という短編を寄稿しています。

 こちらはメフィスト誌上で3号連続となる読者参加型の謎解き企画《推理の時間です》の一編で、"フーダニット"、"ホワイダニット"と続いた本号において、私は北山猛邦先生(!)と共に"ハウダニット"を担当しています。

 依頼を頂いた時は、「この伊吹亜門にハウダニットを???ホワイダニットではなく???」となりました。本格ミステリであるための条件は何よりもフェアネスだと考える私にとって、「読者への挑戦状」が挟まれた作品はその最たるものです。本格ミステリを書くことの難しさは身に染みて分かっていますから、依頼をお引き受けしてもよいのかは正直かなり悩みました。しかし、そうは云ってもこれまで本格ミステリの看板を掲げてお仕事をしてきた以上、ここで逃げては名も廃るというもの。清水の舞台から飛び降りる覚悟で筆を執った次第です。

 今回挑戦状を突き付ける相手は、令和に生きる"ミステリの鬼"と云っても過言ではないメフィスト・リーダーズ・クラブの会員諸氏です。戦うならばせめて伊吹亜門のホームグラウンドでと思い、舞台は満洲に据え『幻月と探偵』(KADOKAWA)での探偵役、月寒三四郎を再登場させました。……しかし、同志社ミス研時代の自分に「お前は8年後、綾辻行人先生の《館シリーズ》と有栖川有栖先生の《国名シリーズ》の新作が載った『メフィスト』に、読者への挑戦状を挟んだ満洲が舞台の短編ミステリを書くんだぜ」と云っても決して信じないでしょう。本当に、人生とは何があるか分からないものです。

 それはさておき、依頼はハウダニットでしたが、折角なので「誰が、どうやって、何の目的で?」の三項目を推理要素として挙げました。論理的に考えれば必ず答えは導き出せる筈ですので、是非挑戦してみて下さい。