【新作告知】「海軍不正講義」

2023年09月25日

 東京、築地小田原町の海軍経理学校は、庶務・会計・被服・糧食を担う主計科士官育成のための軍学校である。

 大正5年秋、七戸造船(ナナコゾウセン)の購買部に勤める可論利之助(カロン リノスケ)は、会社の出向命令に従い、購買実務を講ずる特別講師として経理学校に赴任する。初めての仕事に悪戦苦闘しながらも教壇に立ち続けた可論だったが、海軍省の視察が行われる日に選んだ題材は、どういう訳か「不正を行う方法」というものだった。海軍史上最悪の汚職事件、所謂「シーメンス事件」が白日の下に晒され、巷には海軍の腐敗を糾弾する声が溢れ返っている——にも拘わらずである。

 講義を終えて黄昏の講師控室に戻ってきた可論を、桜崎という学生が待っていた。今日の講義について訊きたいことがあると云う桜崎は、続けて可論にこう問いかける。

「教官は死のうとしていらっしゃるのですね」……。

 KADOKAWAの月刊誌『小説野性時代vol.239 』(2023/10月号)に「海軍不正講義」という短編を寄稿しました。大正時代の海軍経理学校を舞台とした新シリーズの一作目になります。

 執筆に当たって色々な資料を漁ったのですが、海軍経理学校を舞台にしたミステリというのは日本ミステリ史上若しかしたら初めてかも知れません……というか存在するのなら教えて下さい。参考資料が全然ないのです。

 若く純朴な教官(兼会社員)、可論利之助と、鋭い洞察力を備えた若き海軍士官の卵、桜崎劉二郎(サクラザキ リュウジロウ)の物語をお楽しみください。