【新作告知】「遣唐使船は西へ」
2022年03月28日
承和四年、夏の盛りであった。
灰を落としたような曇雲の下、那大津(博多)から二海里ほど沖へ出た滄海の只中に、長さは百尺、幅は三十尺ばかりの遣唐使船が当てどもなく漂っていた——。
*
双葉社の月刊誌『小説推理』5月号に「遣唐使船は西へ」という短編を寄稿しました。
嵐に遭って漂流する遣唐使船に於いて、叡山の老法師、円然が縊り殺される。現場となった屋形は入口が見張られており、小窓にも無理に押し入ったような跡は無かった――つまり密室だったのである。
遭難し水や糧食も足りぬなか、船員たちの心の支えとなっていた筈の円然を誰が、どうやって、また何の目的で手に掛けたのか。奇怪な謎に、遣唐使准判官、入舟清行が挑む。
遣唐使船内だから成立するミステリを目指しました。お楽しみ頂ければ幸いです。