【新作告知】「春帆飯店事件 」

2023年06月20日

 昭和20年、早春。

 日本文学報国会から陣中慰問講演を依頼され、那珂川二坊は戦時下の上海へ向かった。御国の役に立てると喜び勇んだ那珂川だったが、折しも現地では邦人を標的とした爆破テロが頻発しており、滞在先のホテル「春帆飯店」からの外出を禁じられてしまう。

 已むを得ず講演会担当の江見憲兵中尉やボーイと雑談して過ごしていた矢先、同じ春帆飯店の2階に軟禁されていた南京政府の官吏、羅狐冲が不可解な死を遂げる。

 江蘇省の食糧統制管理局局長を務める羅は、関わったとされる汚職事件で死刑の判決を受けていた。一見すると隠し持っていた拳銃で自ら顔面を撃ったようにも見られたが、現場からは羅が手元に置いて離さなかった貴金属の類いが一切姿を消していた。

 ホテルの出入口は全て憲兵に見張られ、非常階段も腐食が進み到底人間が通行し得る状態ではなかった。つまり、羅を殺し宝石を奪った犯人は今も逗留客のなかに紛れている筈なのである。

 熟練の探偵小説家として意見を求められた那珂川は、捜査の指揮を執る江見中尉と共に早速調査に乗り出すのだが——。

 小学館の月刊誌『Story Box』7月号に《帝国妖人伝》の新作「春帆飯店事件」を寄稿しました。今回は昭和20年、戦時下の上海が舞台です。

 明治・大正・昭和に活躍した偉人たちの妖しい顔を紹介する《帝国妖人伝》。四人目の妖人は果たして何者か? お楽しみ頂ければ幸いです。


 そして本編末尾にも記載されていますが、2021年6月からぽつりぽつりと(本当にぽつりぽつりと!)掲載されてきましたこの《帝国妖人伝》、2023年晩秋に書き下ろしを一本含めて刊行予定です。ご期待下さい。