【新刊告知】『帝国妖人伝』

2024年02月10日

「わしは、水ぐるまの音をきいておるのです」

 と、歓喜はこたえた。

「恐ろしい、哀しい——不可思議な、人間の——心理の水ぐるまの音を」

山田風太郎『十三角関係』

 2021年6月から小学館の月刊誌『StoryBox』にぽつりぽつりと掲載してきました『帝国妖人伝』が、書き下ろし作品を含めて一冊に纏まりました。


明治36年、秋・千駄ヶ谷

徳川公爵邸に忍び込んだ凶漢の死と、たったひとつの哀切な願い。

~第1話 長くなだらかな坂~


大正5年、初夏・奈良

軍艦の青写真を盗んだ秘密結社の党員が、嵐の峠道で殺される。近くの茶屋で雨宿りをしていた容疑者は4人。さあ、犯人は誰だ?

~第2話 法螺吹峠の殺人~


大正12年、秋・ポツダム

敗戦直後のドイツを訪れた那珂川は、十年前にこの地で起きた退役将軍怪死事件の再調査に巻き込まれる。那珂川たちを煽る若きドイツ人"博士"の目的とは。

~第3話 攻撃!~


昭和20年、早春・上海

陣中慰問講演のため、意気揚々と大陸に渡った那珂川二坊。着任した矢先、逗留先のホテルでは南京政府官吏の惨屍体が発見される。犯人は未だホテル内にいる筈だと、捜査を担当する憲兵に請われた那珂川も捜査に乗り出すのだが……。

~第4話 春帆飯店事件~


昭和20年、夏・京都

終戦直後の北野天満宮。境内の一角で意識を失っていた那珂川は、或る若者に介抱されて目を覚ます。夏の盛り、静かな朝の物語。

~第5話 列外へ~


 本作は明治4年生まれの小説家、那珂川二坊を主人公として、明治・大正・昭和の歴史に名を刻んだ人々の、もしかしたらあったかも知れない探偵譚を紹介する趣向になっています。大変ありがたいことに、刊行に際しては有栖川有栖・千街晶之両先生からコメントを頂戴することが叶いました。

 大日本帝国の隆盛と衰亡を遍く体験した、売れないけれども書かずにはいられない根っからの小説家、那珂川二坊と妖しい偉人たち物語をお楽しみ下さい。

 それでは次回作の舞台、霏々として雪の降る昭和11年2月26日の帝都でお会いしましょう。