【新刊告知】『焔と雪 京都探偵物語』

2023年08月15日

「要点はね、愚かな人間でも、ひとを愛することはできるし、愛する人を助けるためには、どんなことでも考えだせるということよ。(略)」

『ママは何でも知っている』ジェイムズ・ヤッフェ(小尾芙佐 訳)

 大正10年、京都。

 寺町二条の雑居ビルにある「鯉城探偵事務所」には、今日も様々な人が訪れる。

 元刑事の探偵、鯉城は、頭と脚と、時々己の拳を使い、持ち込まれた種々の依頼を熟していく。しかし、時にはどうにも腑に落ちない不可思議な事件に出くわすこともあった。そんな時、鯉城は岡崎に住まう幼馴染の許を訪れる。事務所の共同経営者にして、貴族院伯爵議員である父親からこの京の地で〝飼い殺し〟にされている友、露木可留良の推理を聴くために——。

 以前からお報せしていました「大正時代の京都を舞台にした《恋愛×ミステリ》の連作短編集」をお届けすることが叶いました。年1冊のペースは崩さすにいきたかったので、ひとまず2023年のノルマは達成です。

 本作は元刑事の私立探偵・鯉城と、その幼馴染にして由緒正しい伯爵家のご落胤・露木の二人が、大正時代の京都を舞台に、奇妙な事件に挑んでいく物語です。

 早川書房の担当氏と初めてお話したのは2018年の冬、髙島屋京都店の洋食店でした。その際に依頼をされたのは「情緒的なミステリを」ということで、アレコレ考えながら書いては直すことを繰り返している内に結局5年近くも掛かってしまいました。しかしその分、なかなか面白い趣向の連作短編ミステリに仕上がったのではないかと思っています(なによりも、ttlさんに描いて頂いた表紙が素晴らしくてですな……) 。

 さて、という訳で。

声はすれども姿は見えない、鹿ヶ谷の山荘に棲まう怪異〝うわん〟の正体は。

~第1話 うわん~


同僚の女子にしつこく付き纏い、鯉城に追い返された男が自ら命を絶つ。しかし、男は何故焼身自殺という最も苦しい方法を敢えて選んだのか。

~第2話 火中の蓮華~


西陣の織元「糸久」で起きた陰惨な強盗殺人事件。矛盾する現場の証拠群から、探偵たちはその陰に蠢く醜い情念を推理するのだが……。

~第3話 西陣の暗い夜~


冷たい月明りが降り注ぐ夜、露木可留良は思い出す。父のこと。今は亡き母のこと。そして、鯉城と共に解き明かした最初の事件のことを。

~第4話 いとしい人へ~


老舗製薬企業から取引先の信用調査を依頼された鯉城の前に、二つの屍体が現われる。探偵の務めとは何なのか。これは、鯉城自身の物語である。

~第5話 青空の行方~


 愛情と憎悪。歓喜と悲哀。羨望と挫折。揺れ動く人間の心を見据えながら、古都を舞台に思いを込めて本格ミステリを書きました。発売は8月17日より全国の書店にて。お楽しみ頂けたら幸いです。

 それでは次回作、明治・大正・昭和に活躍した偉人たちの〝あったかも知れない〟妖しい探偵譚、『帝国妖人伝』(小学館)でお会いしましょう。