【新刊告知】『路地裏の二・二六』

2025年01月25日

「ここは服部時計店ではありません」

「え……?」

「……こんなこともあるのですね。この世では何でも起こるものだ」

北村薫『鷺と雪』

 昭和10年、秋。

 白昼堂々陸軍省の一室で現役の歩兵中佐が上官を斬殺した所謂「相沢事件」に世相が緊迫するなか、憲兵大尉の浪越は教育総監陸軍大将の渡辺錠太郎から密かに呼び出される。苛烈な派閥闘争に明け暮れる陸軍の現状を嘆じていた渡辺は、私益のために抗争を煽っている高級将校たちの密偵を浪越に依頼した。軍の綱紀粛正という自身の目的のためにも恩を売って損はないと判断し、浪越は渡辺の命に服することを決める。

 監視対象の一人、参謀本部庶務課長の古鍜治大佐が満洲出張から帰国したのを見計らい、浪越は早速三宅坂の参謀本部を訪れる。そこで浪越を待っていたのは、内側から鍵の掛かった庶務課長室に転がる二つの惨屍体だった――。

 1/31にPHP研究所から『路地裏の二・二六』が発売されます。『幻月と探偵』以来4年ぶり(!)の長編になりますが、デビュー10周年に相応しい、長く濃ゆい物語に仕上がったのではないかと思います。

 いつかは書いてみたいと思っていた226事件。霏々として雪の降るあの叛乱の日へと至る〝あったかも知れない〟物語をお楽しみ下さい。

 それでは次回作の舞台、砲煙たなびく激闘の二百三高地でお会いしましょう。