アヴェマリアは静かに奏でられる

2019年12月31日

 何かを嫌う理由というのは言葉にしやすいものですが、こと好きな理由になると、これがなかなか難しいものです。

 人に対する想いは勿論、物や場所に対する感情だって同じことでしょう。私も、「どんなミステリが好きですか?」という問いには、べらべらと訊かれている以上の分量で答えられる、否、答えてしまうでしょうが、一方で「どうしてミステリが好きなんですか?」と訊かれると言葉に詰まってしまいます。

 不可解な謎が論理で以て解きほぐされるのが快感だから。謎の起源になり得る人間の強い感情を見るのが好きだから。そうではなく単に驚きたいから。......どれも正しいようで、どこかそれだけではないような気もします。難しい。

 では一方で、どんなミステリが好きなのか? これにははっきりとした答えがあります。

「カッチーニのアヴェマリアが似合うようなミステリはだいたい好き」なんです、私は。

 

 この曲を知ったきっかけは、大河ドラマの『平清盛』でした。余談ですが私はこの作品が大好きで、鹿野師光という名前も実は『平清盛』の登場人物に由来してたりするんですが、それはまた別のお話。

『平清盛』には、カッチーニのアヴェマリアを編曲した「アヴェマリア」という曲があります。別れなどの悲愴なシーンではよく使われていた曲なのですが、私はそれが酷く気に入って、原曲を聴いてみたら、案の定、心底惚れ込んでしまったという訳です。おおう最高じゃん、と。

 私はウォークマンで音楽を聴きながら本を読むことが多いのですが、聴いている曲と読んでいる内容が一致すると気持ちがいいですよね。今までで一番よかったのは、城平京先生の『名探偵に薔薇を』のラストを読んでいる時に斉藤和義「やさしくなりたい」が流れた時です。あれはよかった。

 物語だけでも素晴らしい作品に敢えて音楽を加えることは邪道かも知れませんが、どうも私に限っては、感動が増幅されるので止められずにいます。

 カッチーニのアヴェマリアは、YouTubeにも色々な方の演奏がアップされています。よければ聴いてみて下さい。いいですよ。



 さて、気が付けば年の瀬です。

 色々と忙しかったような気もするのですが、思い返しても発表出来たのは「囚われ師光」の短篇一本だけ。いけませんね。

 来年は、何度か公言しています幕末京都が舞台の本格ミステリ長篇――『村雲事件(仮)』――が上梓できる……筈です。

 それ以外にも「明治京洛推理帖シリーズ」の短編や、若しかしたら新シリーズの短編、また同人誌なんかにも寄稿出来たらなと捕らぬ狸の皮算用に勤しんでいます。『刀と傘』のその先へ。気長にお待ち下さい。

 それでは皆さま、良いお年をお迎えください!