舞台『魍魎の匣』

2019年07月07日

※この酒樽奇談は、京極夏彦先生の『魍魎の匣』と『狂骨の夢』の真相に言及している箇所があります。未読の方はご注意下さい。



 去る土曜日(というか昨日)、右京の山奥にある寓居から三ノ宮まで遠征して、『魍魎の匣』の舞台を見てきました。


 ……凄く、よかったです。


 中高の青春時代を共にした《百鬼夜行シリーズ》のなかでも、『魍魎の匣』は一番好きな作品でした。

 中学時代の伊吹少年は「一瞬でも信用してしまったら(略)あなたの負けだ。これが呪いと云う、あなたがたの分野では扱えない僕の唯一の武器だ」という京極堂の台詞が大好きでしてね。何かある度にしたり顔でその台詞を口にしていたのも今となってはいい思い出……じゃないな。この話は止めましょう。

 それはさておき、『魍魎の匣』は、或る意味、私にとって長編ミステリの理想型に近いものがあります。何がよいって、一見すると何の関係もないように思われる四つの事件が、調べていく内に次々と繋がっていくあのスタイルですよ。『狂骨の夢』もそうですが、私はあれがもう本当に好きなンです。殊に『魍魎の匣』の、冒頭で描かれている情景の「意味」が終盤になって明かされる箇所は、何回読み返しても「ほう」と溜め息が漏れます。漏らさずにはいられません。鳥肌ものです。

 そんな大好きな作品だからこそ、"舞台"という場ではどのような作品になっているのかがとても楽しみでした。


 で、観てきた訳です。よかったですね、本当によかった。


 何がよいって、舞台だからこその演出や表現方法が実に見事なのです。

 皆さんご存知の通り、『魍魎の匣』という作品は境界に纏わるお話です。物理的には客席と地続きでも、あちらとこちらでは全くの別世界になる舞台との相性はそりゃアいい筈ですよ。

 その"境界"の使われ方が素晴らしい。私は三階席だったので、舞台を見下ろす形になって余計によく分かったのです。痺れましたね。

 今日が千秋楽ですが、ニコニコ動画での配信もあるみたいですね。是非ご覧下さい。