【新刊告知】『雨と短銃』

2021年02月13日

「あんたは一体どちら側の人間なんだ?」

「真実の側の人間です」

法月綸太郎『頼子のために』



 陰謀と天誅の血風が吹き荒れる慶応元年、京都。

 土佐脱藩浪人、坂本龍馬は、薩摩と長州の手を握らせるため洛中を奔走していた。

 一度は破綻しかけたその計画だったが、龍馬が身をなげうって双方の説得に当たり、薩摩の西郷吉之助も長州の桂小五郎も徐々に態度を軟化させつつあった。

 協約締結に向けて調整も進み、後は下関の桂に上洛を請うだけだと思われていた矢先、その事件は起きた。


 桂の腹心として龍馬と共に上洛し、薩摩との交渉に当たっていた長州藩士、小此木鶴羽が、西陣の神社境内で斬られたのだ。

 倒れ伏す小此木の傍には、西郷の下で交渉役を務めていた薩摩藩士、菊水簾吾郎が血塗れの姿で立ち尽くしていた。見咎められた菊水はその場から逃亡し、逃げ込んだと思われる鳥居道から謎の消失を遂げた。

 小此木を斬ったのは菊水なのか。若しそうならば、親しかった筈の二人の間に何があったのか。そして、出口を封じられた鳥居道から菊水は如何にして逃げ去ったのか。

 一命こそ取り留めたものの、傷の深さから小此木は未だ目を覚まさずにいた。速やかな事態の収束を望む龍馬に請われ、尾張藩公用人、鹿野師光は早速捜査に乗り出すのだが――。



 大変長らくお待たせしました。

 前々からお報せをしていました幕末京都×本格ミステリの長篇を、漸くお届けすることが叶いました。

 あらすじの通り『刀と傘‐明治京洛推理帖‐』以前の物語で、三柳北枝や大曾根一衛といった前作の登場人物の他、坂本龍馬や西郷吉之助、桂小五郎に土方歳三など幕末のビックネームも出てくる物語となっています(勿論、あの人も)。

 前日譚ですから、『刀と傘』が未読でも何ら問題はありません。むしろ『雨と短銃』を読んでから『刀と傘』に移って貰った方が、作者としてはいろいろ嬉しかったりします……ふふふ。


 出会わない方がよかったのかも知れない、それでも出会ってしまった、或るふたりの男の物語です。


 どうぞご期待ください。



 さて、≪明治京洛推理帖シリーズ≫は今作でいったん小休止です。次に書くとしたら師光の放浪記か、師光と江藤さんの東京でのお話になるでしょうか。気長にお待ち下さい。

 それでは次回作の舞台、昭和13年の満洲でお会いしましょう。