【新作告知】「法螺吹峠の殺人」

2021年10月19日

 大正5年、夏。

 取材のため、京都と奈良の県境に位置する法螺吹峠を訪れていた探偵小説家の那珂川二坊は、吹き荒ぶ雷雨のなか、峠の茶屋近くの泥濘で田舎紳士の死体を発見する。

 匕首で胸を刺された死体を前に立ち竦む那珂川だったが、たちまち茶屋から飛び出してきた男によって捕縛される。男は警視庁の刑事で、秘密結社の党員であるその田舎紳士を追跡していたのだ。

 那珂川も同じ結社の同志であり、内輪揉めから刺し殺したのだろうというのが刑事の云い分だった。偶々通りがかっただけだと那珂川は訴えるが、まるで聞き入れては貰えない。

 しかし一方で、田舎紳士の手荷物からは追跡の原因となった軍艦の設計図が紛失しており、また那珂川が犯人だとすると泥濘に残された足跡の辻褄が合わない。

 茶屋には、刑事の他にも雨宿りをしている数名の旅客がいた。通りすがりの犯行とは思えない以上、田舎紳士を刺殺したのは彼らの内の誰かなのか。また軍艦の設計図は何処に消えたのか。

 雨宿り客のなかには、那珂川の作品の愛読者だという博多訛りの若い行脚僧もいた。彼は那珂川に掛けられた嫌疑を晴らすべく、訥々と自らの推理を語り始めるのだが——。



 小学館の月刊誌『Story Box』11月号に《帝国妖人伝》の新作「法螺吹峠の殺人」を寄稿しました。

 明治・大正・昭和に活躍した偉人たちの妖しい顔をご紹介する《帝国妖人伝》。二人目の妖人は、みんな大好き"あの人"です。

 お楽しみ頂ければ幸いです。