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馴染みの新聞社から招かれてポツダムを訪れた小説家の那珂川二坊は、戦勝国の日本を嫌悪するドイツ人青年"博士"と、傲岸不遜を絵に描いたようなドイツ留学中の帝国陸軍軍人"大尉"との論争に巻き込まれる。

灰を落としたような曇雲の下、那大津(博多)から二海里ほど沖へ出た滄海の只中に、長さは百尺、幅は三十尺ばかりの遣唐使船が当てどもなく漂っていた——。

そう切り出した初老の男は、有機溶剤を使った自身の殺人計画について滔々と語り始めるのだが……。

そして夜は明ける

2021年12月31日

ご無沙汰しております、浜田省吾の武道館ライブに落選し傷心の伊吹亜門です。

取材のため、京都と奈良の県境に位置する法螺吹峠を訪れていた探偵小説家の那珂川二坊は、吹き荒ぶ雷雨のなか、峠の茶屋近くの泥濘で田舎紳士の死体を発見する。

「あたしもそういう考えだったのよ。こんなことになるまではね。あんた、自分は社会改良家だとでも思ってるの?」

雇われ文士の那珂川二坊は頭を抱えていた。『万朝報』に寄せねばならない実録記事が、未だ文章は疎か、題材すら見つけられずにいたのだ。